相続手続きの費用相場はどのくらい? 専門家に依頼したケースを徹底解説

相続手続きは非常に複雑で、多くの作業が必要です。また、謄本などの取得には手数料がかかります。「忙しくて相続手続きの時間がない」「手順や方法が分からず時間がかかる」という方も多く、その場合は専門家や親族に依頼することができます。ただし、弁護士や税理士など、相談内容に応じて依頼する専門家が異なります。今回は、相続手続きに必要な費用について解説し、専門家に依頼するメリットと費用の目安、親族に委任する際の注意点について説明します。
相続手続きの一覧と流れ
“相続が発生した際には、以下の手順で手続きを進める必要があります。期限がある手続きもあるため、注意が必要です。
【相続手続きの一般的な流れ】
金融機関、年金、保険、公共料金など各種届出
遺言書の有無の確認
遺言書が見つかった場合、家庭裁判所での検認手続き
相続人調査と相続財産調査
相続放棄や限定承認の検討
遺産分割協議
遺産分割調停、信販
相続税の申告、納税
遺留分侵害額請求
不動産の相続登記
その他必要な手続き
上記は一般的な流れであり、状況によりさらに別の手続きが必要となる場合もあります。それぞれに「必要書類」があり、郵送で大量の戸籍謄本を取り寄せたり、家庭裁判所への申立が必要になったりと手間がかかります。自分ですべてを終えるのは難しいと感じる方も少なくありません。以下に、相続手続きを時系列で図示したものを示します。
相続手続きを自分で行った場合の費用
“相続手続きは専門家に依頼せずに自分で行うことも可能です。この方法では専門家の費用を節約でき、実費のみで済ませることができます。自分で行う場合、主な費用は書類の取得費用です。特に相続人調査における戸籍謄本類(戸籍の全部事項証明書類)の取得費用がかさみます。また、住民票や印鑑登録証明書の取得にも費用がかかる場合があります。不動産登記を行う際には、固定資産評価証明書の取得も必要です。これらの書類を郵送で取り寄せる場合、郵送料も発生します。
それぞれの費用は以下の通りです。
戸籍謄本: 450円
改製原戸籍謄本、除籍謄本: 750円
住民票: 200~300円
印鑑登録証明書: 200~300円
固定資産評価証明書: 200~300円
1件の相続にかかる実費は数千円から2~3万円程度になるケースが多いです。ただし、自分で手続きを行うと非常に手間がかかります。戸籍謄本を集める際に抜け漏れが生じることもよくあるので、そのような間違いが起こらないよう慎重に対応しましょう。”
相続手続きは、専門家に依頼できる
相続手続きを自分たちで行う時間がない、方法がわからないという方は、弁護士、司法書士、行政書士、税理士などの専門家に依頼することが可能です。依頼すべきケースや費用の相場について解説します。
相続手続きを依頼した方がいいケース
専門家に依頼することで、煩雑な相続手続きをスムーズに進めることができます。前述のように、期限がある手続きもあるため、以下のようなケースでは依頼を検討すると良いでしょう。
“【専門家に依頼した方が良いケース】
仕事が忙しくて相続手続きを行う時間がない
高齢などで相続手続きの方法がわからない
遺産分割協議で揉めてしまった場合(弁護士に遺産分割協議や調停の代理を依頼)
遺産分割協議はできたが、不動産登記だけお願いしたい場合(司法書士に不動産登記を依頼)
親族同士が疎遠であまり関わりたくない
相続放棄した方が良いのか自分では判断できない
遺留分請求をすべきか迷っている
相続財産が複雑で相続税の計算方法がわからない
専門家に依頼する方が良いかどうかは事案によって異なります。細かい案件の場合、依頼が必要ないケースもあります。また、金額だけでなく、相続人の「時間の節約」という観点も考慮する必要があります。専門家の種類によって依頼できる内容が異なるため、以下の図でそれぞれに依頼できる内容をご確認ください。”
弁護士に依頼できる手続きと費用の目安
“弁護士には以下のような相続手続きを依頼することができます。
【弁護士に依頼できる相続手続き】
遺言書の検認
相続放棄、限定承認
相続人調査
相続財産調査
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議、調停、審判の代理
遺留分侵害額請求の代理
預貯金使い込みの責任追及
遺言書の無効確認手続き
弁護士は法律の専門家であり、ほとんどの相続手続きに対応できます。ただし、「相続税に関する業務」と「不動産登記」は依頼できません。弁護士の特徴は「本人の代理人として活動できる」ことです。相続人間の遺産分割協議や調停、審判で揉めたときや遺留分侵害額請求をするとき(されたとき)には、必ず弁護士に依頼しましょう。
【費用の目安】
遺産分割調停の場合、着手金が20~60万円程度からで、遺産総額に応じて報酬金が発生する場合もあります。報酬金は依頼者が得た経済的利益の4~16%になるのが一般的です。また、相続放棄や遺産分割協議書の作成なら10万円程度で、その他の業務に応じて費用は変動します。”
税理士に依頼できる手続きと費用の目安
“税理士には相続税の申告手続きを依頼することができます。相続税の申告は税理士にしか依頼できません。多額の財産を相続し、できるだけ節税したい場合には、相続に詳しい税理士に相談しましょう。
【費用の目安】
費用は遺産総額に応じて変わります。おおよそ20万~50万円程度が目安ですが、各事務所によって費用体系が異なるため、事前に確認したり、複数の事務所を比較したりすることをおすすめします。”
行政書士に依頼できる手続きと費用の目安
“行政書士には以下のような相続手続きを依頼できます。
【行政書士に依頼できる相続手続き】
相続人調査
相続財産調査
遺産分割協議書の作成
車や株式の名義変更、預貯金解約払戻
行政書士は文書作成の専門家ですが、弁護士や司法書士に比べてできることが限られています。主に相続人調査、相続財産調査、車や株式、預貯金の名義変更などを依頼すると良いでしょう。費用は弁護士など他の専門家と比べて低めです。
【費用の目安】
他の専門家と比較して相場は低く、相続人調査、相続財産調査は5万~6万円程度、遺産分割協議書の作成は3万~5万円程度、預貯金や株式、車の名義変更は2万~5万円程度となっています。”
その他、発生する費用について
“専門家に依頼した場合、上記の他に実費や日当が発生します。日当は遠方への出張や移動があった場合にかかります。実費は、戸籍謄本の発行手数料や収入印紙、連絡用切手など手続きに必要な費用です。相続人の数が多いほど必要書類も増えます。
上記はあくまで目安です。初回相談が無料の事務所も多いので、実際に見積もりを出してもらい、比較するなどして信頼できる専門家に依頼するようにしましょう。”
親族に依頼する方法
相続手続きは親族にも依頼できます。その際には「委任状」を作成し、親族に渡してください。受け取った親族が委任状と必要書類を申請先の機関に提出すれば、預貯金の払戻しなどの各種手続きを進めることができます。
委任状の作成方法
委任状には委任事項を記載し、日付を入れて署名押印しましょう。たとえば、「〇〇に以下の預貯金解約払戻の手続きを委任します」と書いて、日付を入れて署名押印すれば完成します。
親族に依頼する場合、費用は発生するのか?
“一般的には、親族に手続きを依頼する場合、報酬は支払わなくても良いでしょう。親族から報酬を請求されることはあまりないと考えられます。
ただし、当事者間で報酬を支払う取り決めをすることも可能です。その場合の金額については特に決まりはありませんが、常識的な範囲で当事者が納得する金額にするのが良いでしょう。たとえば、高齢の親が子どもに委任する際に、お小遣い程度の報酬を渡すなどです。家庭の事情により、金額はケースバイケースで異なると考えられます。
手続きにかかる実費(書類取得費用など)は「委任した人」が負担すべきです。委任された親族はあくまでサービスとして手続きを代行しているだけであり、本来費用を負担すべきは委任者だからです。”
 委任する際の注意点と予防策
“親族に委任する際の注意点とトラブルを避けるための予防策をご紹介します。
白紙委任状
親族に委任する際には、「白紙委任状」を渡さないことが重要です。白紙委任状とは、委任事項を明確に示さず「一任します」とする委任状です。委任事項を明確にしないと、受け取った親族が何に使うかわからず、借金をされたり保証人にされたりするリスクがあります。トラブルを防ぐために、「預貯金の払戻し」「不動産登記手続き」など、具体的な委任事項を示して委任状を作成しましょう。
親族に依頼するときのリスク
親族は相続手続きのプロではありません。信頼できる相手を選ばないと、いい加減な対応をされて手続きが進まない可能性があります。例えば、親が子どもに手続きを任せて安心していても、子どもが忙しくて手続きを放置するリスクがあります。また、子ども自身が手続きの方法がわからず困ってしまうケースも多いです。さらに、依頼された子どもが他の親族の反感を買い、トラブルに巻き込まれることもあります。士業(専門家)は「仕事」として相続手続きを代行しますが、親族は「親切心」で手伝う意識しか持っていないことが多いです。よりスムーズに相続手続きを終わらせるには、専門家に依頼する方が確実です。