相続手続きで司法書士に依頼できること
“司法書士に依頼する相続手続きといえば、相続登記(相続した不動産の名義を変更する手続き)が代表的ですが、司法書士はこれに限らず、相続人調査から遺産分割協議書の作成、預貯金の解約払戻し、有価証券の名義変更など幅広く対応することができます。司法書士が相続人から依頼を受けて行う代表的な相続手続きは以下のとおりです。
相続人調査(戸籍謄本などの収集)
相続財産調査(評価証明書や残高証明書の取得、信用情報機関への債務照会など)
相続放棄の申述書作成(書類作成のみ。家庭裁判所への申立を代理することはできない)
相続財産管理人選任の申立書作成(書類作成のみ。家庭裁判所への申立を代理することはできない)
遺産分割協議書の作成(相続財産に不動産が含まれる場合のみ)
相続登記(相続や遺贈を原因とする所有権移転登記)
預貯金の解約払戻し
株式、投資信託など有価証券の名義変更
相続手続きに関する相談やアドバイス(相続に関する紛争解決や他の相続人との交渉はできない)
また、遺言や任意後見契約、家族信託契約など生前対策のサポートも行うことができます。相続が発生した後はもちろん、相続に備えた準備段階でも幅広くサポートできる点が司法書士の特徴です。”
司法書士に相続手続きを依頼したときの費用相場
“司法書士に相続手続きを依頼する際の費用は、「実費」と「報酬」の2つに大別されます。
相続手続きにおける実費は、戸籍謄本など公的証明書の発行手数料や相続登記の登録免許税などが該当します。これらは自分で手続きを行った場合でもかかる費用で、金額(算定根拠)は一律に決まっています。
一方、司法書士の報酬は自由に定めることができるため一律の規定は存在しません。しかし、依頼者に対してあらかじめ報酬額の算定方法や報酬の基準を示すことが法律で義務付けられているため、事務所ごとに報酬規定表を設けているのが一般的です。依頼する前に見積りを出してもらうか、報酬規定表を提示してもらい、何をどこまで依頼したら報酬がいくらになるのかを確認した上で依頼することが重要です。
以下は、相続手続きについて私が勤める司法書士法人リーガル・フェイス(当事務所)と、インターネットでランダムに検索した2つの事務所の報酬基準を一覧にしたものです(いずれも税別)。
遺言作成サポート
当事務所:6万円~
A事務所 :10万円~
B事務所 :6万円~
相続人調査(戸籍謄本などの収集)
当事務所:2万円(10通まで)
A事務所 :3万円
B事務所 :3万5000円~
相続放棄の申述書作成
当事務所:4万円~
A事務所 :5万円~
B事務所 :4万円~
相続登記
当事務所:6万5000円~
A事務所 :4万円~
B事務所 :5万円~
預貯金の解約払戻し
当事務所:5万円(1金融機関につき)
A事務所 :3万円(同上)
B事務所 :4万円(同上)
遺産分割協議書の作成
当事務所:1万5000円~
A事務所 :4万円~
B事務所 :2万円~
遺産承継業務(相続手続きセット料金)
当事務所:30万円~
A事務所 :30万円~
B事務所 :財産価格の1%
司法書士の報酬は、地域によって相場が変わりますし、相続人の人数や不動産の数、相続関係の複雑さなど、事案によっても異なります。あくまでも目安として捉えてください。”
司法書士に相続手続きを依頼したときの費用事例
“では、相続手続きをまとめて司法書士に依頼した場合、具体的にどのくらいの費用がかかるのか、以下の事例をもとに見ていきましょう。
亡くなった人: 朝日太郎さん
相続人: 長男、長女、二男
相続財産: 計4500万円。内訳は自宅不動産(土地1500万円、建物500万円)、預貯金(A銀行1000万円、 B銀行1000万円)、上場株式(C証券会社500万円)
相続税: 基礎控除額(3000万円+600万円×3=4800万円)の範囲内なのでかからない
遺産分割協議の内容: 長男が不動産を単独で取得し、預貯金および上場株式を長女と二男が2分の1ずつ(各1250万円)取得することで合意
司法書士への依頼内容: 3人とも仕事が忙しく手続きを進めることができないため、必要な相続手続きを一括して依頼
当事務所の報酬規定をもとに、相続手続きを一括して依頼した場合の内容と費用は以下の通りです。
実費と報酬の合計で約65万円前後になります。報酬だけでも決して安い金額ではありませんが、相続人の3人で負担すると1人あたり約21万円でひととおりの手続きを代行してもらえることになります。”
司法書士に相続手続きを依頼するメリット
“司法書士に相続手続きを依頼する利点としては、主に以下の3つが挙げられます。
中立的な立場で適切なアドバイスをしてくれる
手間を省き、確実に手続きを進めてくれる
一部の相続人に負担が集中しない”
. 中立的な立場で適切なアドバイスをしてくれる
司法書士は特定の相続人の代理人となって他の相続人と交渉したり、特定の相続人が有利になるようなアドバイスをしたりすることはできません。相続人全員に対して中立的な立場で業務を行います。そのため、相続人全員の疑問や不安に対応し、円滑に相続手続きが進むように適切なアドバイスを提供することができます。
手間も少なく確実に手続きしてもらえる
相続手続きをまとめて司法書士に依頼すれば、相続人自身が動くことはほとんどなくなります。相続手続きでは役所や金融機関に何度も足を運ぶ必要がありますが、これらの窓口は平日の日中しか対応してくれないことがほとんどです。仕事や家事で忙しく、手間をかけたくない場合は、司法書士に依頼する方が良いかもしれません。
一部の相続人が負担を抱え込むことがない
司法書士などの専門家に依頼しない場合には、相続人全員が協力して相続手続きを行います。しかし、実際には相続人のうち誰か一人が代表者として役所や金融機関の窓口に出向くことが多くなります。その結果、一部の相続人だけが手続きの負担をすべて負うことになり、他の相続人に対して不満が生じ、紛争のきっかけになるケースもあります。第三者である司法書士が手続きを行うことで、円滑に相続手続きが進むこともあるのです。
司法書士に依頼するときの注意点
前述のとおり司法書士は相続手続きにおいて幅広く業務を行うことができますが、下記のように司法書士では対応できないケースも存在します。
相続人間に争いがある場合は対応できない
“
司法書士はすべての相続人に対して中立的な立場で相続手続きを行うため、特定の相続人の利益のために他の相続人と交渉したり、特定の相続人が有利になるような助言をしたりすることはできません。
たとえば、3人兄弟の長男から「亡くなった父名義の土地を自分の名義にしたい」と相続登記の依頼を受けた場合、この相続登記には「土地は長男が単独で取得する」という内容の遺産分割協議書に相続人全員の署名捺印が必要です。長男からの依頼に基づいて遺産分割協議書を作成することはできますが、弟2人に対して署名捺印をするように司法書士が説得や交渉を行うことはできません。
相続人同士が不仲で話し合いに応じてくれなかったり、主張が完全に対立していたりする場合には、はじめから弁護士に相談すべきでしょう。”
相続税申告についての相談には対応できない
“
相続財産の総額が基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合には、相続税の申告が必要となります。この申告を相続人に代わって行うのが税理士です。相続税の申告には、相続財産の評価方法や小規模宅地の特例措置など、専門的な知識が必要となります。
相続によりどれだけの税金を納める必要があるかは、相続手続きの上で重要なポイントです。相続税の申告が必要な場合や申告の要否がすぐに判断できない場合には、まずは税理士に相談することをお勧めします。”
ほかの士業の独占業務も行えない
“自動車の名義変更や許認可の承継は行政書士、社会保険手続きは社会保険労務士、特許権や著作権に関する手続きは弁理士というように、業務を行うことができる専門家が法律で決まっている場合があります。これらの業務を司法書士が行うことはできません。
司法書士が対応できる相続手続きの範囲と対応できない範囲については、下記の図版「相続について各士業が対応できる業務内容」も参考にしてみてください。”