遺産相続手続きをしなかったらどうなるのか?

遺産相続手続きには期限があります
“葬儀や法要だけでも大変なのに、ご遺族にはまだまだ行わなければならない相続手続きが残っています。銀行、市役所、年金の手続き、病院の入院費や葬儀の支払いなど、多くの手続きをこなす必要があります。
遺産相続手続きの期限について
急がないと間に合わない!? 遺産相続手続きには期限があります。
ひとつひとつの遺産相続手続きの流れは、こちらから確認してください。
これだけたくさんの手続きがあると、考えるだけで気持ちが滅入ってしまいます。
これらをすべて放置したら、どうなるのでしょうか?”
遺産相続手続きをしないで放置しても、ただちにペナルティはない
“結論から申し上げますと、相続手続きを放置しても特に罰則やデメリットはありません。(不動産相続登記は例外で、罰則規定が設けられています)
令和6年(2024年)4月1日より、相続登記が義務化され、期限が設けられました。詳しくはこちらをご参照ください。
遺産が減少したり、国に取り上げられたりすることはないため、しばらく放置しても思い立ったときに取り組んでも特に問題はありません。
また、年金や役所手続きなどには、7日以内や14日以内などの期限が定められていますが、これらの期限を過ぎても問題なく手続きができます。
※相続放棄の申請と相続税の申告については、期限に注意が必要です。
ただし、いつかは手続きを行わないと、亡くなった方の名義のままで凍結された状態が続きます。遺産相続手続きを放置して数年が経過するうちに、共同相続人の中に亡くなる方や、認知症などを発症する方が現れると、相続関係がさらに複雑化し、手続きも煩雑になります。
何より、故人が築かれた資産をいつまでも故人の名義のまま凍結させるのは、亡くなった方への礼儀として良くありません。先人を弔い、敬意を表するためにも、きちんと相続手続きを完了させることがご供養につながると私は考えています。”
銀行預金を手続きせずに放置すると・・・
“遺産相続が始まると、銀行預金は凍結され、預金の入出金ができなくなります。
凍結を解除するためには、戸籍謄本で相続人を確定し、相続人全員の署名と実印、印鑑証明書を揃えて所定の手続きを行う必要があります。これを行わない限り、預金はいつまでも凍結されたままです。
そのまま長期間、例えば10年間、放置するとどうなるのでしょうか?”
2019年より休眠預金等活用法が開始
“正確には、「2009年1月1日以降の取引から10年以上、その後の取引がない預金等」が、休眠預金として取り扱われます。
相続発生の時期ではなく、最後の入出金等が行われた日が基準です。
10年が経過して休眠預金となると、預金保険機構へ移管され、民間公益活動に活用されます。”
休眠預金になっても、きちんと相続手続きをおこなえば、払戻しを受けることができる
“預金保険機構で民間公益活動に活用されるといっても、移管されたすべての休眠預金等がそのまま活用されるわけではありません。
預金保険機構では、将来の引き出しに備えて、その5割が準備金として積み立てられています。
所定の手続きを行えば、払戻しを受けることが可能です。”
2009年1月1日以前から入出金等のない口座は休眠預金にならない
“既に10年以上取引がない口座は、休眠預金等活用法の対象外となります。
休眠預金について、より詳しい情報は金融庁発行のQ&Aをご参照ください。”
債権の時効は10年
“銀行預金とは、金融機関に対する預金債権のことです。
この債権を行使しない、すなわち金融機関に対して預金の払い戻しを請求しない場合、その預金債権は10年で時効消滅します。(場合によっては5年の場合もあります。)
口座名義人が死亡し、遺産相続人が相続手続きを行わないまま、遺産分割協議が進まずに放置されたとしても、10年を経過すると預金債権が消滅する恐れがあります。
ただし、実務上は10年経過後でも、きちんと手続きをすれば金融機関が支払いに応じてくれるケースが多いです。
皆様がよく心配されるように、国に没収されることは今のところありません。
しかし、凍結されたままの預金額は相当な金額にのぼるといわれており、今は銀行の内部に眠っていますが、いずれ法律が改正され、国に没収される恐れがないとも言えません。
また、10年経過後の支払いに応じるかどうかは、各金融機関によって判断が異なる場合があります。
支払ってもらえる場合でも、時間が経過しているため手続きが複雑になり、銀行が支払いに応じない場合には、文句を言えない可能性もあります。”
いつ、銀行口座は凍結されるのか
“預金者の死亡により、口座は凍結されます。これは特定の相続人の不正行為により他の相続人の相続権が侵害されないようにするためですが、実際のところ、金融機関が相続人同士の争いに関与したくないという側面もあるのではないかと個人的には感じています。
口座が凍結される時期は、金融機関が預金者の死亡を知ったときです。
役所に死亡届を提出しても、その情報は金融機関と連携していないため、すぐに口座が凍結されることはありません。相続人もしくは関係者が金融機関に預金者の死亡を通知したときに、初めて口座が凍結されます。
なお、地域によっては住民の死亡が新聞に掲載されることがあり、その地域の金融機関は日々、新聞の死亡欄をチェックして、口座保有者の名前があれば、それをもって口座を凍結することもあります。”
不動産登記をせずに放置すると・・・
不動産登記は3年以内
“これまでは、故人の名義のまま何十年が経過しても、実務上は何のペナルティもなく名義変更の手続きが可能でした。
しかし、その結果、故人名義のままの不動産が増えてしまったため、相続登記は3年以内に行うよう義務化されました。長年、祖父の名義のまま放置されていた不動産の相続登記をしようとしたら、いとこやおじ・おばを含めて10人以上が相続人になっていた、というのは現実によくあるケースです。
また、明治時代や大正時代に登記された抵当権が今も残っているというケースもあります。
この場合、抵当権者が銀行などではなく個人であることが多く、その抵当権者がすでに亡くなっている場合、その相続人を探して印鑑をもらわなければ、抵当権を抹消できないというケースもあります。”
母に前夫との間の子がいるケース
“自宅を亡くなった父親名義のまま放置するケースは非常に多いです。その間に母親が亡くなり、兄弟の中にも先立つ者が出てくることがあります。そうなると、自宅の名義変更は非常に困難になります。
例えば、10年前に父が死亡した場合、母と本人がそれぞれ2分の1の持分を相続します。しかし、自宅の登記をせずに母が亡くなると、母の2分の1の持分は本人と、母の前夫との間の実子に相続されます。もしその実子がすでに死亡していると、さらに複雑になります。
実子が成人してお子さんがいる場合、その相続権は代襲され、さらにその子が未成年であれば、手続きはさらに複雑化します。考えるだけでも気が遠くなりますね。
このケースでは、父が亡くなった時点で息子と母が遺産分割協議を行い、不動産の名義を息子が相続することに決めて手続きを行っていれば、何の問題もなかったということになります。”
相続人が未成年者のとき
“未成年者は遺産分割協議書にサインすることができません。通常は親権者が未成年者に代わって署名捺印を行いますが、遺産相続では、未成年者と親権者が共同相続人となるケースがよくあります。
この場合、未成年者と親権者の利益が相反する(利益相反行為)ため、親権者は未成年者を代理することができません。
このような場合、遺産分割協議の際に未成年者を代理する特別代理人を家庭裁判所に選任してもらう手続きが必要です。
相続発生時に未成年者がいない場合でも、相続手続きを放置しているうちに相続人の一人に不幸があり、その子が未成年者で代襲相続人として登場するケースでは、上記の家庭裁判所の手続きが必要となり、遺産相続が複雑になることが想定されます。”
相続人が認知症のとき
“相続人の中に認知症などを患い、正確な判断ができない方がいるケースもあります。
その場合、その方は自分で遺産分割協議書にサインできないため、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てる必要があります。
成年後見人が一度選任されると、認知症の方が回復して健常者になるか、亡くなるまで成年後見人を解任することはできません。その責任も非常に重いため、申し立てから選任までに半年から1年程度かかることがよくあります。
相続発生時に認知症などを患う方がいなくても、相続手続きを放置しているうちに、相続人の一人が認知症を発症するケースでは、上記の家庭裁判所の手続きが必要となり、遺産相続が複雑になることが想定されます。”
子どものいないご夫婦が相次いで他界されるケース
お子さんがいないご夫婦で、ご主人が亡くなると、奥様とご主人の兄弟姉妹・おいめいが共同相続人となるケースがよくあります。
相続手続きを主導する方がいなかったり、遺産状況がよくわからなかったりすると、遺産相続が進まず、そのまま奥様も亡くなってしまうことがあります。
そうなると、奥様の兄弟姉妹とおいめいまでが新たな共同相続人として登場し、相続関係はさらに複雑化し、相続手続きも煩雑になります。
当センターに寄せられるご相談でも、「あのときにきちんと手続きをしておけば」と後悔されるケースが非常に多く見受けられます。”
行方不明で、どうしても連絡が取れないご相続人がいるとき
“この場合、なんとか連絡を取る以外に方法はありません。
戸籍の附票や住民票からその方の現住所を確認し、お手紙やご訪問などで連絡を取ることになります。
もし、住民票記載地にその方がいらっしゃらないことが明らかな場合、法律上の行方不明者となりますので、裁判所の関与が必要になります